遠く広い道。
ある時は風雪に。
ある時は春の嵐が。
またある時は火災が。
そんなけわしい道林業。

故きを温ねて新しきを知る」ということわざのとおり、物事の真実、また、真理というものは、新しいものを求めて歩むばかりではなく、どちらかと言えば、故きものを深く究明することの方が、効果的であることを、この家屋が教えてくれます。

室町幕府末期(1568年)から安土桃山時代(1573年)の頃、近江(滋賀県)から三重県に住まいを移し、農業および酒造りを業としてきました。

明治初年(第14代目彦左衛門)に「郷土の発展・家運の興隆は林業にあり」と強い信
念に燃え、林業の道に入ったのが、現在の田中林業の始まりであります。

優良種の杉、檜の密植・枝打・間伐を行い、伐期60年の通直無節の大径材を樽丸、および高級建築用材として生産につとめました。

経営にあたっては、施業の計画化・合理化等を図り、目標達成に努力し、生き甲斐のある明るい山村社会を造ることを目標にしております。

波瀬は吉野林業地に隣接しており、地質上、中央構造帯に属し杉、檜の最適地として名高いところです。
また、大台山系に次ぐ多雨地帯でもあり、恵まれた林業地であります。

自然を愛し、山に生きる我々は、少なくとも成長する木の年輪の如く、自分自身の歴史をはっきりと刻んで歩もう。その歴史は、日頃の行動から生まれ、自分の想いから生まれ、心から、そして言葉からも創られていくことでしょう。

自分自身の歴史を一頁ずつ顧みるとき、本当に自分自身に素直に生きてきただろうかと多くの疑問が残ることでしょう。その大きな原因の一つは、物事を知っていて行わなかったことではないでしょうか。
知ることと行うことの一体が、自然を愛し、山に生きるものの、いや、人間としての当然の姿だと信じるからです。